朔夜の隠者の日記

ある鬼の話⑤

05-19 08:41

最後の朝、鬼は改まって居住まいを正すと、頭を床につけたまま、話し出した。
「一月の間、本当にお世話になりもうした。これで閻魔大王様の前にも堂々と報告ができます。わしがこのような因果を背負った理由も、見えてきました。しかし、どうしてもわからぬことがございます。それを最後の質問とさせてくださいませ。」
「どのようなことだ?」
「繰り返し出てきます、『すべては移り変わるものであり、実態なきものである』という部分でございます。この命もまた、いつか絶えるもの。それゆえ、この命をどう使うかが肝心であることもわかりました。しかし、わが身のひもじさは耐えられても、わが子が『ひもじい』と泣く声は、どうして耐えられましょうか。子供に何の罪がございましょうか。わしはそれゆえに、最初の罪を犯しました。わしは、いったいどうすればよかったのでしょうか。」
 俺はしばらく声すら出せなかった。俺ならば、どうするだろうか。半時ほども考えただろうか。何の糸口もみつからないまま、俺は口を開いた。
「すまない。俺にはわからぬ。わからぬが、これは俺の持論で、俺の勝手な解釈だが、こう思う。その問いを追求していくことこそが、道を求めるということなのではなかろうか。」
 鬼はしばらく、まっすぐにこちらを見ていたが、やがて再び頭を下げた。
「ありがとうございます。わしも、それを追求してまいろうかと思います。」
「そうか。もし何処かで菩薩にでもあったら、訊いてみてくれ。俺の考えが正しいとは限らんのでな。」
こうして俺は鬼と別れた。今生で縁ありしものは、来世でも何かしらの縁があるという。あの性分ならば、おそらく次に会う時は、こちらが教えを請う立場になろう。その折には、この一月の記憶はなかろうが、実に楽しみだ。少し意地悪をした時に見せた、なんとも困った顔を思い出し、俺は一人、小さく笑った。
明日、里に下りてみよう。そして今後は、もう少し人と交わって生きていこう。鬼との一か月間で、俺の心にも大きな変化が生じていた。
気の早い梅の蕾が膨らみはじめ、メジロ達が澄んだ空に春の予感を歌っていた。

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これで最後になります。始まりは前の方にあります。全5回です。

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